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 フランス人のダーリン・ロロさんと「ろうそく能」に行ってきました。

 最初に15分くらい演目の解説があり、それから狂言の「栗焼」、その後能舞台を囲むように配置されているろうそくに火入れの儀が施され、能「融(くつろぎ)」が上演されました。

 狂言でクスッと笑った後、堂内の照明が暗くなりろうそくの火が灯ると急に幻想的な雰囲気に早変わりしました。

 内容が難しいので解説があったにも関わらず実はよく理解できなかったのですが、ろうそくの火の中で体をあまり動かさず、すり足で歩く様や計算されつくした繊細な所作は十分堪能できました。

 ところで、ロロさんは? というと案の定となりでグーグー寝ているではありませんか。しょうがないので見どころのシテ(主役)の舞いのシーンなどは肘でつついて起こすと、ロロさんは何事もなかったかのようにガバッと起きて、
「オーワンダフル!」と目を見開いて感心していました。

 確かに、美しい刺繍が施されたブルーの衣装で白い能面をつけて踊るシテは幽玄という表現がふさわしいほど美しかったです。

 金沢は能が盛んな土地柄です。

 私の父も謡(うたい)が趣味で役所から帰るとすぐに謡の練習を毎日のように熱心にしていました。ちなみに謡は能のバックコーラスのようなものですが、歌というより唸っているいる、といったほうがぴったりくるサウンドです。

 私も父の影響を受けて夏休み子供謡教室などに参加しておりました。もうかれこれ40年くらい前のお話です。今でも覚えているのが、一所懸命練習して、さて本番というときに、
 「女の子はこっち」と、能舞台にはあげてもらえず、舞台袖カーテンの背後に座らされて謡ったことです。自信があっただけにショックだったことを覚えています。

 「ろうそく能」では横笛の担当の方が女性で、能舞台の上で堂々と演奏されていたので、時代の移り変わりを感じたのでした。

 今回能鑑賞をしてよかったと思ったのは、ダーリンに金沢の文化を紹介できたこともありますが、父と共通の話題ができたことです。

 練馬でやっていたフレンチレストランを畳んで金沢に移住した主な理由は、両親の介護です。

 84歳の父は今入院中で、今まで入っていた特別養護老人ホームとは違いあまり人とお話をするチャンスがありません。このままではもうろくしてしまう、とお見舞いのたびになるべく話をするようにしているのですが、
とにかく共通の話題に事欠くのです。

 さっそくろうそく能のチラシやパンフレットを持って行って、
「お父さんも謡がんばっとたよね〜」
と話しかけると、父はウンウンと頷きながら物思いにふけっておりました、

 謡とともに壮年時代のことに思いを馳せているのかしら、と思っていると、父がぽつり、
「入場料1500円、高いなあ!」
と、一言つぶやいたのでした。

 こんだけ現実的ならまだまだ心配せんでもいいわ、と独りごちた私でした。