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 殿がまた本を出した。殿とは、あの四国制覇で有名な大名・長宗我部元親を先祖にもつ長宗我部家17代目当主長宗我部友親さんのことだ。

 殿は、たまたま私の上司であったこともあり、友人であったり、そしてマルシェロロのお客様であったりする。

 殿と出会ってから人間には名家のDNAとか誇り高き血脈とかちゃんと存在するんだ、と思うようになった。まず、態度物腰そして見かけが殿様らしい。

 顔が大きくて鼻が高いちゃんとした大物顔をしている。そのせいかどことなく偉そうな雰囲気を醸し出している。「殿!」と呼ぶとちゃんと「はい」と答える。そして何かビックリするようなことがあると「今、背中の先祖様の霊がぶるっと震えた」とか言う。

 『長宗我部』(バジリコ出版、文庫は文春から)『長宗我部、復活篇』(文春文庫)に続き、今回で三作目となる長宗我部家のことを書いた『絶家を思う』(新講社)でも殿様らしいエピソードを語っている。

 戦国時代に大名が武士を集めたように、殿の家にはだいたいいつも食客がいたらしい。その代表格が通称「まむし」といい、殿が飲み屋で出会って意気投合してから20年以上家に住み着いていたらしい。まむしは一日五合ほどただ飯を食い、歯のない口をぱっくり開けて食べる姿がマムシという名前の由来らしい。

 昔の侍は飯を食わせたら戦で働いてくれたものだが、まむしはワンちゃんや猫ちゃんの世話をして恩義に多少報い、潮時だと思うとたまにフーテンの寅さんのように旅に出てはまた戻ってくる、を繰り返し20年以上となったようだ。

 また、先祖を斬首されている殿は川風が吹いてくるような感じがしてその中で自分が斬首されている夢をみたり、また幽閉された先祖がいる殿は極度の閉所恐怖症だったりするらしい。

 大名のルーツをたどった本はあまたあるが、子孫が直接書き下ろしている本は珍しい。子孫ならではの逸話がいくつも散りばめてあって面白い。

 長宗我部家と伊達政宗との関係など一般にはあまり知られていないルーツや、元親の娘阿古姫の活躍などを含め、家を繋いでいくということは並大抵の苦労ではできない大仕事なのだと思った。

 また、名家であろうと跡継ぎ問題があり絶家を考えざるを得ない状況や、先祖供養の話など一名家の遠い話ではなく、一般人の私も共感できる話として、殿の悩ましさがヒシヒシと伝わってきた。

 散歩に携行して、桜の木の下で遠い先祖に思いを馳せながら『絶家を思う』を読んで過ごすのもいいかもしない。